とっておき。
「コンプリートしたくない気持ち」がある。
なにか好きなものができると、
「これにまつわる全てをコンプリートしたい!」
と思うのが、わりと普通だと思うのだけど、その「コンプリート欲」を満たしたくない気持ちがある。
好きな作家の本だとか、好きなミュージシャンの音源だとか。
この気持ちを強く意識するようになったのは、中島らもさんが亡くなってから。
「ああ、もう、らもさんの新刊は読めないんだ」と思ったときから、まだ読んでないらもさんの本を、とっておきたいと思うようになった。
そもそも、別の誰かを「コンプリート」できるだなんて思ってるなら、それはとても傲慢なことだとも思うし。自分の記憶や体験すらコンプリートなんてできないよ。
僕がいつか病の床に伏して、明日には死にますってなったときでも、そのときに、とっておきの中島らもさんの「新刊」を読んで、新しい何かを発見して一喜一憂したい。自分の人生を見つめなおして、安堵したり、あるいは絶望したりして死んでいきたい。
そして、最後の晩餐の最後の一皿は、とびきりおいしいデザートを食べて死んでいきたい。僕が人生の最後に口にするものは「甘いもの」だって決まっている。
デザート食べずに最後の晩餐が終われるわけがない。
「ああ、死にそうだ。はやくデザートを持ってきてちょうだい!」
って。