好きな音楽、好きな本、好きな映画。

「料理通信」の5月号を読みました。
そうそうたる顔ぶれの100人のシェフがそれぞれの考え方を示しています。

この特集の中で、僕が素晴らしいと感じたのは、各シェフに「好きな音楽、好きな本、好きな映画」を聞いているところ。料理通信編集部、素晴らしい。
各シェフとも、自分の料理に対する姿勢や価値観などを話していますが、それはやっぱり専門的な話が多く、僕ら飲食業の人間にはえぐるように伝わってきますが、おそらく一般の方には伝わりにくい部分があると思います。それを、イメージでわかりやすく伝えるのが、好きな音楽、本、映画。料理人としてのその人を伝えるだけでなく、人としてのその人を伝えるもの。
イタリア料理のシェフがイタリア映画を挙げていると、食だけでなくもう文化そのものを愛していることがよくわかるし、「好きな音楽・なし、好きな本・料理の本、好きな映画・なし」みたいなシェフからは「オレはもう武骨に料理一筋なんですよ」という頑なな意思表示が見える。イタリアの肉屋で修業してきた方の好きな映画が「紅の豚」とか最高すぎる。
そんな中で、「好きな音楽・スチャダラパー」だとか「好きな本・ジョジョの奇妙な冒険」だとか「好きな映画・ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」みたいなシェフを見つけると、「お!」となります。

「フランス伝統料理とか、堅苦しくてよくわかんない」みたいな人でも、「スチャダラが好きな人に悪い人はいない」みたいな感じで、そのシェフ個人に興味を持つことができたのなら、そのシェフの料理の世界観にも興味をもってくれるかもしれない。好きな作家の愛した店に足を運んでみて、そこでその作家の作風・世界観を垣間見るように。中島らもや高田渡を好きな人が、安居酒屋を嫌いな訳がない。
ここに登場する100人はいずれもトップクラスのシェフで、尊敬するシェフたちの仕事は食という「文化」なのだけれど、それを「サブカルチャー」にして、多くの人に理解してもらう翻訳の場として、僕らカフェがある。食に興味がない人にも、食の素晴らしさを知って欲しいから、それをストイックにではなく、ポップに表現する。きっかけはスチャダラでもジョジョでも何でもいい。音楽が好きな人には、音楽が好きな人にわかるように、映画が好きな人には、映画が好きな人にわかるように。「この曲はサビだけじゃなくて、ギターソロが秀逸」「あのシーンのカメラの長回しと長台詞が圧巻」「あの伏線があったからクライマックスが感動的」っていうのは「蕎麦屋ではまず軽くつまんで呑んでから、〆に蕎麦を食う」ってのと、たぶんそんなに違わない。

音楽にも本にも映画にもある、「粋」みたいなものが食にもあることを伝えられたらいい。
僕らは、娯楽でありたい。